前回、前々回と教育ニュースフィードで生成AIに関する話題を取り上げました。ご好評につき、今回はNotebookLMを取り上げます。NotebookLMとは何かをはじめとして、基本機能や活用方法、導入のメリット、利用時の注意点など、ChatGPTとの違いも含めて、企業での活用について分かりやすくご紹介します。では、早速、見てみましょう。
NotebookLMとは?
NotebookLM(ノートブックエルエム)とは、Google社が開発および提供する生成AIツールです。日本語版が提供開始されたのは2024年6月6日で、調査や文章作成を助ける機能から、AI型ノートブックやノートブック型AIアシスタントなどと呼ばれることもあります。
同社のAIであるGemini2.5Proによって実現された、異なる種類の情報を組み合わせて分析できるマルチモーダル解析機能が実装されています。テキストや画像、音声、映像といった異なる情報を複数同時に処理できる生成AIだということです。
ノートブックという名前のとおり、情報の整理や分析、まとめをはじめとして、検索や調査、記録などを非常に効率的にこなすことができます。ChatGPTに代表されるこれまでの対話型AIとの大きな違いは、データソース(情報の参照元)の限定や音声生成などです。
次章で詳しく見ていきましょう。
NotebookLMの大きな特徴
NotebookLMには、以下のような特徴があります。
- データソースの限定供給
- ハルシネーションリスクの最小化
- 多様なデータソースに対応
- データソースに対する安全性の高さ
- 無料で利用できる機能の多さ(有料版あり)
NotebookLMのもっとも大きな特徴のひとつは、データソースを自分でアップロードし、限定できる点にあります。アップロードされた情報のみを参照し、即時に分析、その上で結果を返せるということです。ユーザーが指定した情報だけを参照させることができます。
その一方で、従来の生成AIは、あらかじめ学習した大量のデータをもとにユーザーへ回答します。学習データの品質や参照するデータによって、生成AIが事実に基づかないもっともらしい誤情報を生成してしまうことをハルシネーションと呼びます。NotebookLMは、データソースを指定できることから情報の精度が高まり、ハルシネーションの最小化が可能です。
読み込ませることができるデータには、テキストをはじめとして音声や動画などがあります。こちらにつきましては、次章で詳しく触れます。また、読み込ませたデータは、AIのトレーニングに使われることがないため、社内の機密情報や独自のノウハウ、個人情報といった情報でもアップロード可能です。
なお、マインドマップや音声概要の日本語対応といった機能のアップデートも迅速で、今後ますます進化していくでしょう。こういった機能を持つNotebookLMを、基本的に無料で利用できるというのも大きな魅力です。有料版との違いについても、後述します。
NotebookLMの基本的な機能
ここから、NotebookLMの基本的な機能を見てみましょう。NotebookLMの画面は、大きく3つに分かれています。左から「ソース」「チャット」「Studio」です。
NotebookLMの画面
ソース:データソースや文字起こしなどが表示されるエリア
チャット:チャットに加えて自動的に生成される要約なども表示されるエリア
Studio:音声やメモ、マインドマップなどの機能があるエリア
これを踏まえて、基本的な機能を見てみましょう。
【ソース】対応可能データ
前述のとおり、データソースを限定できることがNotebookLMの大きな特徴のひとつです。指定できるデータには、以下のようなものがあります。
- ファイル:テキスト、PDF、Markdown、音声(mp3など)
- Googleドライブ:Googleドキュメント、Googleスライド
- リンク:Web、YouTube
- テキストの貼り付けも可能
たとえば、ログインが必要なサイトやSNSなどは、テキストをコピペして貼り付けることでデータソースに指定可能です。ソースに指定したもののエラーが出る場合には、参照元のほうでAIツールによる利用をブロックをしている可能性があります。
また、検索からデータソースを見つけて読み込ませることも可能です。
【ソース】回答の参照元が表示される
NotebookLMでは、生成した情報の参照元をたどることも可能です。そもそもNotebookLMは、ソースを自分で指定できるという特徴があります。しかし、それだけではなく、指定した情報源の中でも、どの情報をもとに新たな情報を生成したかを簡単に確認できるという機能が搭載されています。
このことによってAIの回答の根拠が明確になり、誤情報や不明確な情報、思い込みなどによる誤解や思い違いを防ぐファクトチェックも可能です。特に法人が提供する情報の場合には、正確な情報伝達が求められるため、この機能は大きな安心材料となるでしょう。
【チャット】対話型AIによる情報活用
NotebookLMは、ChatGPTのように要約や抜粋だけでなく、対話型AIとしても利用できます。自分で読み込ませた情報の範囲内で、質問や疑問への回答を返してくれます。インターネットに公開されている一般的な情報ではなく、参照する情報を限定できるため、回答の精度が上がるのが特徴です。
また、質問内容(プロンプト)を入力する画面下のチャットボックスには、データソースから類推されるよくある質問があらかじめいくつか用意されます。クリックするだけで、知りたい内容の回答が得られるので、こちらも時短に役立つといえるでしょう。
【ソース・チャット・Studio】文字起こしと音声化機能
音声や動画といった音源から文字起こししたり、読み込ませたテキストを音読できるのも、NotebookLMの特徴的な機能のひとつです。音声や動画を読み込ませると、内容が自動的に文字起こしされ、それと同時に概要も表示されます。
文字起こしのデータを元にポイントをまとめさせたり、文字数を指定して要約させるという使い方も可能です。また、読み込ませたテキスト情報を音声化することもできます。
通常の読み上げと異なり、NotebookLMの音声化機能では、要約した内容を対話形式で聞かせるというスタイルです。音声の生成には数分かかることもありますが、抑揚やリズム、スピードなど人間に近い音声で、まるでラジオを聴いているような気分になります。
【チャット・Studio】対話内容をメモとして保存可能
ChatGPTのような生成AIでは、すべての履歴が自動的に記録されますが、NotebookLMでは、質問やチャットの回答を残しておきたいものだけを選んで、メモとして保存しておくことが可能です。
この機能を上手に使えば、本当に重要だと思った情報だけをメモとして保存しておくことができます。メモとして保存しておくと、質問や対話がひととおり終わった後からでも、いつでもNotebookLMかの回答を確認可能です。
たとえば、日常的なビジネスシーンでよくある「あの時のあのやりとりはどこだっけ?」と、履歴の中から回答を探す必要がなくなります。メモに残しておけば、対話がいつ行われたかやどのような対話の流れの中で出たトピックだったかを思い出す必要はありません。
【Studio】マインドマップ機能
NotebookLMは、読み込んだ資料の内容を自動でマインドマップ化する機能も備えています。複雑な内容や大量の資料の場合でも、視覚的に整理されることで構成内容や関係性などを体系的に把握しやすくなるでしょう。
言語設定と共有機能
指定したデータソースが外国語であっても、質問への回答は日本語で返すように設定できますので便利です。ただし、画面右上の設定(歯車マーク)から、出力言語を日本語にしておく必要があります。
チームで仕事を進める場合に不可欠な共有機能については、無料プランの場合、ノートブック全体を共有することになります。有料プランの場合には、部分的に情報を共有することも可能です。記事の最後に無料プランと有料プランの比較表を掲載しましたので、詳しくはそちらをご覧ください。
NotebookLMの企業での活用事例
NotebookLMを企業で活用する場合、業務効率化や生産性向上にどのように役立つか具体的な活用事例を見てみましょう。
議事録や講演などの要約作成
営業会議や企画会議といった社内会議の音声または動画が記録として残っていれば、NotebookLMを使って、簡単に議事録を作成できます。音源または動画をアップロードして文字起こしさせ、話のポイントをまとめさせればいいからです。
議事録完成までにかかる時間は、音源の長さによりますが、数分程度でしょう。人間が内容を思い返しながら、重要な内容の抜け漏れがないように仕上げていくよりも、格段に早く仕事が終わります。
講演やレクチャーなどの要約も、NotebookLMならあっという間に完成させるでしょう。
業務マニュアルや作業手順書の更新や管理
業務マニュアルや作業手順書などの更新や管理も、NotebookLMで効率的に作業を進めることが可能です。こういった作業の煩雑なところは、変更点を洗い出したり、まとめたりすることだといえるでしょう。
NotebookLMを使えば、業務マニュアルや作業手順書をアップロードし、以前のものとの違いを見つけさせ、変更点をまとめさせれば、作業は終わります。更新や履歴管理といった手間が大幅に削減され、つねに最新情報を反映した文書管理が可能になります。
営業力の強化
営業力の強化のために、NotebookLMが力を発揮するのは、次のような場面でしょう。
- 競合他社分析
- 問い合わせ分析
- FAQの作成
- 社内の成功または失敗事例の分析
- プレゼン資料の改善や作成
情報収集や比較分析、要約は、NotebookLMの得意とするところです。公式サイトや企業情報、カタログといった公開されている情報の分析はお手のものでしょう。自社内に蓄積されている問い合わせからFAQを作成させたり、自社商品やサービスの改善点を発見させることも可能です。
過去の成功事例や失敗事例が、営業日報といった記録として残されていれば、成功や失敗の理由や要因を分析させ、必要な人に素早く共有することもできます。成果を上げたい企業や営業パーソンにとっては、恰好の学習材料になるでしょう。
NotebookLMは、Googleスライドの読み込みに対応しているため、プレゼン資料の改善や作成という点でも営業活動に寄与します。
ノウハウ継承サポート
営業力強化のところでもお伝えしたとおり、NotebookLMなら、事例を読み込ませて成否に大きく影響した要因を分析させることが可能で。成果を上げている社員のノウハウを社内に共有するために、関連資料などを読み込ませて分析させてもよいでしょう。
個人の技量に頼るところが大きく、ノウハウが属人化しやすい業務の場合には、ノウハウの共有はもちろんのこと継承をサポートでき、組織全体の知識やスキルの底上げが期待できます。
新入社員研修や社内研修での活用
新卒や既卒(中途)にかかわらず、新しいメンバーに対して実施する必要があるのが新入社員研修です。業界や市場、企業情報はもちろんのこと、自社商品やサービスの知識、社内用語、業務の進め方など、覚えることがたくさんあります。
新入社員研修での課題のひとつは、同じ研修を受けても学習進捗や理解度に差が出ることです。そこで、NotebookLMに資料や動画を読み込ませ、新入社員が自分のペースで質問を繰り返しながら学習できるようにしておけば、新入社員研修の効果アップと研修担当者の負担軽減が期待できます。
研修資料をアップロードし、研修後の振り返りやフォローアップ、継続的な自主学習支援としてNotebookLMを通じて理解を深めていくことも可能です。
また、全社員を対象とするコンプライアンスやハラスメント、コミュニケーション研修、役職者などへのマネジメント研修についても同様に、NotebookLMが役立つでしょう。
NotebookLM利用時の注意点
NotebookLMは優秀な生成AIツールですが、利用に際しては、以下のポイントに注意する必要があります。
アップロードする資料の選別と結果の共有範囲
機密性の高い情報や個人情報などを含むデータは、慎重に取り扱いましょう。適切な権限設定を行った上でアップロードするといった配慮が不可欠です。ひとつのGoogleアカウントを社内で共有する場合の設定や生成された情報の共有範囲の管理にも注意しましょう。
NotebookLMは、アップロードしたデータソースをAIのトレーニングに利用しませんが、社内の情報セキュリティポリシーがある場合には、それに合致するか確認、または生成AIの活用に対する調整を加えるなどして運用する必要があります。
日本語対応可能か
現時点でNotebookLMは、主に英語での使用が前提となっています。冒頭でお伝えしたとおり、日本語版がリリースされたのは2024年6月6日で、音声概要が日本語に対応し始めたのは2025年4月30日と、約1ヶ月前のことです。
今後、おそらくNotebookLMの機能が拡大拡張されていく中で、日本語版のリリースが英語版の後になることだけは確かだといえます。ユーザーが日本語対応版を希望する場合、日本語版のリリースまで翻訳ツールなどを使う必要があるでしょう。
導入後のアンケート実施や効果計測
実際にNotebookLMを活用した研修を実施した後は、ユーザーからのフィードバックを収集し、業務改善や生産性向上にどれくらい貢献したか確認が必要です。定期的に確認することで、いっそう活用していけるようになるでしょう。
運用ルールを設け操作方法を含めた学習機会を設ける
操作方法はもちろんのこと、機密情報や個人情報の取り扱い、社内での生成AI運用ルールやガイドラインが必要であれば設け、しっかりと周知徹底や管理をしましょう。生成AIに関する法律は、まだ整備段階にありますので、情報漏洩や著作権の問題などに触れる可能性があることも知っておかなければなりません。
生成AIはあくまで補助として活用する
NotebookLMのような生成AIツールは、非常に便利であるものの、使い方に留意する必要があるというのは、何度かお伝えしているとおりです。いったん公開してしまえば、それが人間によるものなのか、生成AIによるものなのかに関係なく、コンテンツに対して責任を持たなければなりません。
運用の範囲やルールを決めたり、人による確認や判断をどこでどのように取り入れるべきかなどを決め、補助的に活用するようにしましょう。
NotebookLMのプランと料金
NotebookLMには、無料版と有料版があります。違いを一覧にまとめましたので、ご覧ください。
名称 | NotebookLM(無料版) | NotebookLM in Pro(有料版) |
主なユーザー | 個人 | 法人 |
基本機能 | すべて利用可能 | すべて利用可能 |
プレミアム機能 | 利用不可 | 利用可能 ・ノートブック内チャットのみのデータ共有が可能 ・高度なチャット設定 ・共有したノートブックのアクセス分析 |
作成できるノートブック数 | 最大100件 | 最大500件 |
1つのノートブックあたりのデータソース上限 | 最大50件(上限50万語) | 最大300件(上限50万語) |
1日の質問回数 | 最大50回 | 最大500件 |
1日の音声生成 | 最大3件 | 最大20件 |
料金 | 無料 ・Googleアカウントがあれば利用可能 | 有料 ・現在加入しているGoogleのサブスクリプションプランによって料金が異なる |
プレミアム機能の詳細などを含む各プランの詳細につきましては、NotebookLMのヘルプ(英語)をご確認ください。
NotebookLMヘルプページ
https://support.google.com/notebooklm/answer/16206866?hl=en
まとめ
これまでの生成AIと異なり、NotebookLMは、限られたデータソースに基づく即時の情報生成を実現していることが大きな特徴のひとつです。音源からの文字化やテキストの音声化も容易で、テキストと音声、動画といった異なる情報をひとつの画面で複合的に取り扱うこともできます。
今回取り上げたように、NotebookLMはGoogle社による最新のAI型ノートブックのサービスとして、企業の業務効率化や生産性向上に大きく貢献する可能性を秘めています。従来の対話型AIツールにはない強みや安全性を持ち、社内活用できるのが大きな魅力です。
今後、NotebookLMはさらに機能拡充や他サービスとの連携が進むでしょう。その一方で、生成AIは日進月歩の世界です。また驚くような商品やサービスが発表されるかもしれませんが、このように便利なツールが無料で利用できるのですから、ぜひNotebookLMをご活用ください。
NotebookLM公式サイト
https://notebooklm.google