2023年の主なリスキリング関連ニュースとそこから考える人材育成のポイント

2023年の主なリスキリング関連ニュースとそこから考える人材育成のポイント

2023年は、リスキリングが始まって丸1年を迎えるリスキリングイヤーだったと言っても過言ではないでしょう。事業展開等リスキリング支援コースが始まった2022年12月を起点に、この1年間の主なリスキリング関連ニュースとリスキリングが人材育成に果たす役割について考えてみましょう。

2023年 リスキリング支援コース関連の主なニュース

2021年10月:岸田首相が所信表明演説で構造的な賃上げについて言及
2022年10月:リスキリング支援として「5年で1兆円」と発言
2022年12月:事業展開等リスキリング支援コース創設
2023年4月:一部改正が加えられる(賃上げ促進税制による補助拡大)
2023年6月:雇用関係助成金ポータルで電子申請が可能に

岸田内閣発足時の所信表明演説で、岸田首相が構造的な賃上げについて言及したのが約2年前の2021年10月です。(現在、岸田内閣は裏金問題で大変なことになっていますが…)発足から1年後に「5年で1兆円」という予算規模を発表し、その2カ月後に事業展開等リスキリング支援コース(以下、リスキリング支援コース)が創設されました。

この1年間の主なニュースは、4月改正で賃上げ促進税制による補助が拡大されたことと、6月から雇用助成基金ポータルで電子申請が可能になったことだといえます。補助拡大や電子申請につきましては、別記事でそれぞれ取り上げていますので、詳しくはそちらをご覧になっていただければ幸いです。

ここからは、リスキリング支援コースという制度そのものではなく、リスキリング関連のニュースを見ていきましょう。

1年間で見えてきたリスキリングの実態

リスキリングに対する支援が始まって、1年が経過しました。この間、どのような動きがあったのか振り返ってみましょう。まずは、リスキリングに選ばれる内容からです。

リスキリングの内容はデジタル関連が人気

リスキリングのニーズが高いのはどのような分野なのかを検索すると、デジタルやIT関連スキルという結果が出てきます。

2023年10月に日経新聞が実施した読者調査 によると、学び直しをしている人の4人に1人はプログラミングや人工知能(AI)など、デジタル関連をテーマにしていたと報じています。2023年8~9月、日本リスキリングコンソーシアムが会員を対象に実施した調査では、リスキリングをした分野のトップ3は、データ分析(65.9%)、マーケティング(20.2%)、AI(16.1%)でした。

これは納得できる結果だと感じます。リスキリング支援コースにはいくつかの支給要件がありますが、事業展開をしない場合には、①デジタルトランスフォーメーション(DX)化、または②カーボンニュートラル化を推進するために必要な知識や技術を習得させるための講座が対象とされています。

DX化のほうでは、デジタル技術を活用した業務効率化や市場での競争優位性を確立するために不可欠なスキルの習得も含まれることがポイントです。

新たな製品やサービス、ビジネスモデルなどを作り出すために欠かせないデータ分析やマーケティングをはじめとして、Webやスマートフォンなどのモバイル端末に搭載するシステム・アプリ制作のニーズが高いと考えられるでしょう。

リスキリングが抱える課題

ニーズが見えてきたところで、次はリスキリングの課題を見てみましょう。

WHITE株式会社の調査結果がリスキリングの現実的な一面を浮き彫りにしているのではないかと感じます。同社は、調査の要約として「リスキリングを始めたきっかけ」と「リスキリング受講後の処遇」ついて述べていますので、ご紹介しましょう。

リスキリングを始めたきっかけ

リスキリングを始めたきっかけは、「不足している知識やスキルの補足」(42.1%)、「新たな知識やスキルへの興味」(37.9%)といった能動的な理由が上位を占めました。次いで、「業務上の必要性」(27.7%)ですが、「将来への危機感・不安」(24.6%)からリスキリングを始めたというのも頷けます。

その一方で、「会社での費用負担」(16.4%)や「会社(上司・人事)からの要請」(14.9%)といった理由も上がっていました。会社の命令だからという言い分は、どの会社でも一定数は見られるものですし、できれば会社負担で受講したいというの、は受講側からしたら偽らざるところだといえるでしょう。

リスキリング受講後の処遇

リスキリング受講後の処遇については、「給与アップにつながらなかった」(29.0%)、「キャリアアップにつながらなかった」(24.6%)、「仕事で活用する機会がなかった」(22.8%)などの不満があったとしています。

パーセンテージは少し落ちるものの、「人事評価制度に反映されなかった」(19.6%)、「会社からその後のフォローがなかった」(17.4%)、「学んだスキルを活用する体制・風土に会社が変わらなかった」(14.5%)という声もありました。

もしかすると、耳の痛い話と聞こえたかもしれません。しかし、弊社のお客様には、「リスキリングに選んだ講座を受講して良かった」「リスキリングが役に立った」と思っていただきたいので、敢えてお伝えしています。

つまり、このような点に注意してリスキリングを計画・実施すれば、会社と従業員の双方にとって良い結果を生む研修を実施できると考えられるのですが、その前に1点考えておきたいことがあります。それは、リスキリングを実施したにもかかわらず、上記のような結果になってしまった理由(原因)です。

ポイントは人材育成や能力開発への取り組みの有無

リスキリングの成否を分けるポイントは、人材育成や能力開発に日ごろから取り組んでいるかどうかだという見解があります。

リクルートの調査によると、人材育成や能力開発の見直しができている企業では、以前より生産性が向上していると回答したとしています。そこで、見直しとは具体的にどのような取り組みなのかを聞いたところ、得られた回答が以下のものです。

括弧内の数字は、「人材育成や能力開発に関する具体的な取り組みの結果、生産性が向上した企業」と「人材育成や能力開発に関する具体的な取り組みができなかったため、生産性が低下した企業」を表します。

  • 「従業員の経験からスキルを棚卸して、希望する等級や職責になるために必要なスキル・経験を一緒に検討している」(向上した企業:48.8%、低下した企業:26.1%)
  • 「従業員に対して、自社以外でも通用するスキルを学ぶ機会を提供している」(同49.5%、23.8%)
  • 「大学での学び直しやセミナー参加といった、社外での学習を奨励している」(同42.3%、24.3%)

つまり、従業員個々人が希望するキャリアプランについての話し合いやその実現のために必要なスキルの棚卸、個人が成長する機会を作り出せているかどうかが、生産性向上のポイントだといえそうだとしています。

また、同社は人材育成や能力開発と離職率との関連性も調査しました。人材育成や能力開発の見直しができていない企業では、離職率が想定より高いことがわかったとしています。

離職率が想定より高い企業ができていなかったのは、「従業員の既存の知識・スキルのアップデートを奨励」「従業員に対して、自社以外でも通用するスキルを学ぶ機会を提供」「定期的に従業員のキャリアの方向性や能力開発の計画をすり合わせる機会を用意」するなどでした。

生産性を上げるだけではなく離職率を適正に保つためにも、人材育成や能力開発の見直しが大切だとしています。

リスキリングに関する主なニュース

このようなことが次第に分かりつつあるからか、リスキリング周辺では企業や国のさまざまな取り組みが見られます。主だったものをいくつかご紹介しましょう。

リスキリングへの支援続々と

まずは、民間企業の動きを取り上げます。リスキリングによるインセンティブの引き上げや学び直しのための休職が認められるなど、リスキリングに関連する人材施策が次々と発表されています。

  • 中部電力がMBA取得の報奨金を5万から30万円へ引き上げ(2023年10月)
  • 群馬銀行がリスキリングや配偶者の転勤などによる離職を防ぐ「キャリア継続支援休職制度」を導入(2023年10月)
  • ソニーグループが50歳代の従業員が望む社外での就業体験やリスキリングを提供し新たな職種や起業を支援(2023年7月)

このほかにも、ホンダやトヨタのリスキリング(2023年5月)も話題となりました。ホンダは2030年までにソフト開発ができる人材を現在の倍の1万人に引き上げるとし、トヨタも約9,000人を再教育してソフト開発に転身させると発表しました。

会社が社内転職を積極的にサポートする動きなどもあり、リスキリングによる人材の再配置も進んでいるといえるでしょう。

リスキリング支援額が7年で12倍に

日経新聞は12月12日、厚労省のリスキリング関連助成額が、7年で12倍に増えたと報じました。支援対象の講座数も、デジタル関連のものを中心に、2025年までに現在の6割増(300以上)とするとしています。助成率も最大8割まで引き上げ、慢性的な人手不足に悩むITや医療介護への労働力の移動を狙うとのことです。

日本リスキリングコンソーシアムの創設

日本リスキリングコンソーシアムとは、2022年6月に創設されたリスキリングを推進する団体です。Google社が主幹事、経済同友会が代表幹事となって戦略的パートナーシップを締結し、国や自治体、民間企業を巻き込んで年間20万人のリスキリング支援を目指すとしています。具体的なリスキリング支援とは、以下のとおりです。

  • 先進的なリスキリングに取り組む企業の実践的なトレーニングを一般向けに公開
  • 女性・地方のデジタルリスキリング支援・情報提供

個人や法人を問わず無料で会員登録でき、1000以上のプログラムを受講できます。弊社にとっては強敵でもあり、かつ強力な支援者ともいえます。社会では、リスキリングがこのように推奨されているということが伝われば幸いです。

日本リスキリングコンソーシアム
https://japan-reskilling-consortium.jp/

非正規雇用で働く人へのリスキリング支援も拡充

リスキリングに関連する動きがこのように活発になる中、政府は非正規雇用で働く人へのリスキリング事業を開始すると11月に発表しました。働きながらキャリアアップができる仕組みとして、非正規雇用で働く人々が休日や夜間にオンラインでリスキリングに取り組めるようにするというものです。2023年度中に試行事業を始めるとしています。

こちらについてはこれからの話ですが、正規雇用や非正規雇用にかかわらず、リスキリング支援がますます広がっていくことを期待させてくれる施策として、経過を注視していきましょう。

まとめ

今回は、リスキリング支援コースの主なニュースとリスキリングに関連するニュースを取り上げました。そこからわかるのは、リスキリングが確実に進んでいるということです。このことをどこまで自分ごととして受け止められるかによって、少し先の未来が変わっていくのでしょう。

リスキリングが人材育成という点で、その効果を余すことなく発揮するには、時代や社会、お客様から切に求められている商品やサービスを提供するために不可欠なスキルを習得するのだと、会社と従業員がともに理解することだと考えます。日ごろから人材育成や能力開発に関する取り組みが実施されていることも、非常に重要でしょう。

それに加えて、リスキリング後の処遇まで対応できたら完璧です。しかし、最初からそのようにすべてを望むのは難しいでしょうから、まずは目の前のスキル獲得というところから始めてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

吉野竜司|Ryuzi Yoshino株式会社アイクラウド 代表取締役CEO

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